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技術への飽くなき探求心が生んだ「脆弱性診断の研究」で
製造業界に価値を与えるサービス基盤を構築
現在、日本の製造業界では人材不足が顕著であり、隆盛を極めた「ものづくり」においても国際化による競争の荒波に揉まれている。特に工業分野では、業界・業種・地域の垣根を越えた新商品の開発や新技術の発展といったシナジーが生まれにくい状況にあり、中小企業の高い技術力が活かしきれていない。業界が抱えるさまざまな課題の解決策の一つとして注目されているのが、マッチングサービスの活用だ。
2022年9月、工業系企業とそこで働く人のマッチングを実現するために製造業のプロによって開発されたのが、製造業向け総合マッチングプラットフォーム「Factor X」だ。『企業と技術、企業と人材をつなぐ』この画期的なプラットフォームは、どういった背景で生まれたのか。
今回は、Factor Xのインフラ設計から構築に対応した営業の島崎光敏氏とエンジニアの矢澤由維氏の2人に話を聞いた。ベル・データとしても前例のないサービスモデルの実現に、どのように向き合ったのだろうか。
ゼロベースからインフラ環境の最適解を模索
――Factor Xプロジェクトに関わることになったいきさつを教えてください。
- 島崎
「愛知県でフォークリフト部品および油圧シリンダー製造を専門に行う半田重工業株式会社様から、プロジェクトのお話をいただきました。同社は以前、自社製品の特殊加工を行う際、対応できる企業を探し出すのに苦労した経験がありました。その時の経験を活かし、他にも同じような悩みを抱える中小企業があるはずだと考え、IoTやICTで製造業界の課題解決のためのシステムを提供する事業を立ち上げられました」。
- 矢澤
「Factor Xの構想を聞いたとき、正直どう感じました?」。
- 島崎
「対応できるか不安はありましたが、始めから『できません』とは決して言わないことにしています。まずは、お客様の話を丁寧にヒアリングしようと。その中で、サービス立ち上げにおけるシステム運用関連のインフラ環境は、国内ベンダーへの依頼を希望する意向を聞き出しました。
マッチングプラットフォームの運用開始後に、不具合が生じた際のスピーディな対応を希望されていたのがその理由です。要件の難易度から、当初想定していた国内ベンダーから断られたため、以前に付き合いがあった当社にお声をかけていただきました。当時は『検討します』と伝えて一度持ち帰りましたが、正直なところ誰に相談したらいいものか、困惑しましたね」。
- 矢澤
「そういうタイミングで自分がプロジェクトに関わるフロントとして、島崎さんの上司につないでもらったんですよね」。
- 島崎
「当時の支店長に相談したら、東京のエキスパートエンジニアとして矢澤さんを紹介してもらいましたね」。
- 矢澤
「クラウドでマッチングプラットフォームを構築したいという話を初めて聞いた時、実現のための手順や手法がすぐに頭に浮かびませんでした。本来、お客様が困っていること、解決したいことに対して仮説をもとに提案を行うスタイルですが、それがゼロベースでしたから、まさに裸一貫で立ち向かうような状況でしたね」。
まるで雲をつかむような話に聞こえるプロジェクトへの参画に、当初はとまどった。
しかし、半田重工業様のFactor Xを「共に創っていきたい」と熱い想いに打たれて、参画を決めた。その後の取り組みは、半田重工業様の積極的な協力のもと、事業担当者の頭の中にある構想を具現化するため、双方で何度もミーティングを行い、意見交換を重ねた。納期までに間に合わせようと泥臭く、粘り強く走り切った。
「システム構築に必要な技術とは?」を常に追求し提案
――基盤となるクラウドサービスの選定はどのように行ったのですか?
- 矢澤
「マッチングプラットフォームは多くのユーザーが使用するので、無防備の状態でアップすると、サーバダウンでサービス停止するリスクが高まります。そのため、セキュリティ対策はしっかりやるべきだと思っていました」。
- 島崎
「お客様もその点については同意見だったので、話が早かったですよね」。
- 矢澤
「ただ、マッチングサービスのインフラ構築は初だったので、走りながら提案する感じでしたね。さまざまなクラウドサービスのセキュリティガイドラインを勉強し、安全なWebサイトのローンチを目指しました」。
- 島崎
「矢澤さんのネットワークセキュリティ強化への追求を経て、他のクラウドと比較してセキュアで接続も速く、将来的なサービスの拡張にも最適なAWSが選ばれましたね」。
- 矢澤
「ユーザーが限定されるマッチングプラットフォームといえど、悪質な外部アクセスへのセキュリティ対策と多くのユーザーが利用しても破綻しない強固なアクセス環境は重要なポイントです。加えて、今後のサービス拡大による機能拡張にも対応するカスタマイズ性が求められました。Factor Xの実現に足りない技術、必要な技術とは何かを念頭に、お客様が求める要件にフィットするようカスタマイズが可能な独自のシステムを構築しました」。
- 島崎
「Factor Xのインフラ環境の構成が複雑で、かなり工数がかかりそうでしたよね」。
- 矢澤
「そうそう!Webアプリケーションの開発と並行して一気に進めるのは難しいよねという話になって。AWSの構築は経験済みですが、マッチングプラットフォームの基盤を一から組むという意味では、どのような手順を踏むかは未知数でした。インフラ環境は段階的に構築しましょう、という提案をしたところ快く承諾していただけました」
ステークホルダー間の潤滑油となり、スムーズな進行を実現
――Webアプリケーション開発はお客様が選んだ海外ベンダーが担当されたそうですが、どんな点に苦労されましたか?
- 島崎
「先方の意向でユーザーインターフェース開発は海外ベンダー、プラットフォーム開発は当社という座組でプロジェクトに携わるメンバーが揃いました。3社でミーティングを行って開発に臨んだんですが、これが大変でしたね」。
- 矢澤
「海外ベンダーの担当者は日本語を話せましたが、技術的な部分の擦り合わせや合意形成など、ビジネスにおける共通言語でコミュニケーションするのは難しかったんです」。
- 島崎
「お客様はFactor Xの構想を実現するソリューションや機能がわからないので、当社に助言を求めます。海外ベンダー側もお客様のやりたい細かなニュアンスを探りながらデザイン構築せざるを得ません。そのため、システム開発における通訳ともいうべき、仲介役を当社が担ったんです。本来であれば業務の範囲外ですが、誰かがその役割を担わないと次の業務に進めないため、矢澤さんが担当しました。冗談抜きで、彼じゃなかったらプロジェクトは成功しなかったですね」。
- 矢澤
「納期が決まっているためスピーディなコミュニケーションと対応が求められる状況下だったので、『自分が仲介役をやるしかないじゃん!』と(笑)」。
- 島崎
「矢澤さんの柔軟な対応に、本当に助けてもらいました。アプリケーションの安全性は大丈夫かという懸念が上がった時も、矢澤さんがそこに対するセキュリティは何が必要なのか、一生懸命に向き合って。お客様も『矢澤さんが提案されるセキュリティガイドラインなら、ぜひそれで』と一目置かれていることが明白な回答でしたよね」。
- 矢澤
「お客様が不安に思っていることをクリアにする提案をしたり、海外ベンダーとのコミュニケーション不足は自ら補ったりする姿勢が信用を得ることにつながったんだと思います」。
目の前のことを一生懸命やった結果、顧客が喜んでくれるなら努力を惜しまない――。そんなひたむきさ、真摯な姿勢に半田重工業様は大きな信頼を寄せていた。
セキュリティ強化への追求で足りないパズルを埋めた
――お客様は、プロジェクトの開始当初からWebアプリケーションの安全性を懸念されていたようですね?
- 島崎
「Webアプリケーションの脆弱性による侵入や攻撃を懸念していたこともあり、脆弱性診断を当社に任せていただきました」。
- 矢澤
「アプリケーションのセキュリティを一段強化すべく、各種セキュリティソフトをカスタマイズして、顧客の要望に添った堅牢なネットワーク構築を追求しました。Webサイトへの不正アクセス対策として、多層防御(セキュリティ機能を組み合わせる)構成を選択したんです。具体的には、WAF/DDoS/IPS/AV機能を適切な箇所に配置するため、適合するセキュリティサービスの選定および実装を行いました。
アプリケーションでは、不正アクセス対策としてreCAPTHA実装や会員登録時にワンタイムパスワードを必要とするための仕組みのご提案と、保守運用のセキュリティ保全のため、ソースコード内には機密性の高い情報等を含まないための実装を開発者とディスカッションしながら行いました。
また、会員情報を持つサービスであるため、Webアプリケーション診断を実施し、第三者の目線からの安全性の評価も含めリリースのご判断を頂けるようにご提案をしました。
安全なサービスとしてリリースするために何が足りないのかを見極め、お客様の不安を払拭する万全なセキュリティ対策を提案できたと思います」。
- 島崎
「海外ベンダーも参加する説明会を開いて、診断結果の報告書やデータをダイレクトに伝えるのではなく、できるだけ理解しやすいように丁寧にお伝えするよう心がけました」。
- 矢澤
「でも、このプロジェクトの成功はお客様がとても協力的で寄り添っていただいた部分も大きかったですよね」。
- 島崎
「それは自分も感じました!開発時期が繁忙期だったにもかかわらず、最後まで伴走いただけましたね。『間に合わせてもらい、ありがとうございました』と何度も感謝の言葉をいただきましたよ」。
工業界全体に貢献できる新規サービスの開発に携わった矢澤氏と島崎氏の2人。「なんとしてもFactor Xのサービスリリースを実現してあげたい!」というこだわりと想いがこのプロジェクトを成功に導いた。今後も、顧客の課題解決に貢献するだけでなく、プロフェッショナルとして自身の市場価値をさらに高める成長を遂げるはずだ。
島崎光敏
西日本営業本部
中部支店 営業課主任
2013年入社。名古屋出身。現在は、中部支店の営業課主任として、製造業を営む中小企業向けにITソリューションを提案している。「仕事は順調な日もあればうまくいかない日も。ネガティブな感情はメリットが一つもないので、すぐに切り替えられる性格が強み。1日寝たら忘れるようにしています」
矢澤由維
サービス・デリバリー 第2インフラストラクチャー・サービス
ソリューション・サービス エキスパートエンジニア
2009年入社。お客様との対面コミュニケーションを重視するなど、社内外への気配りには定評がある。仕事への妥協は許さないストイックさが強みで、座右の銘は「切磋琢磨」。「自分の成長のためにも目の前の仕事を一生懸命やることは当たり前。ハードルが高かったとしても、全力で取り組めば、新しい気づきを得たり後輩にレガシーとして引き継いだりできるから」