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レガシー技術継承で実現する IBM i の未来――ミャンマーとのオフショア開発で見えた新たな一手

BELLグループの事業会社であるベル・データは、IBM i のシステム保守・開発を長年請け負ってきた。同システムで利用される開発言語「RPG」はIBM i(AS/400)環境でのみ使われおり、現在、若いエンジニアが学ぶ機会がほとんどないという。RPG技術者の高齢化も進んでおり、人材確保が急務となっていた。

とはいえ、国内でニアショア開発を模索しても、人件費が高騰しており、現実的な選択肢とは言えない状況だった。

そうした課題に対処するためにタッグを組んだのが、ミャンマーのオフショア開発および技術者派遣事業を展開するグローバル・イノベーション・コンサルティング株式会社(以下、GIC)様だ。同社を通じてミャンマーの若手エンジニアを育成し、RPGによる保守・開発のリソースを確保する新たなスキームを構築することにしたのだ。

その取り組みがどのように始まり、これからどのような未来図を描こうとしているかについて、プロジェクトを牽引してきたGIC取締役副社長の小西 剛様、ITソリューション事業部でSEを担当するテーミャッノールイン様、ベル・データの成瀬正樹、小堀一弘の4名に伺った。

RPG技術者の減少を食い止めるために。ミャンマーに見出した活路

web_373A0061.pngGIC様との協業が始まったのは約2年前のこと。

- 小西
数年前、RPGを使った保守や開発における人材不足が深刻だという相談を受けました。その際、GICがミャンマーで育成している若手エンジニアの手を借りることはできないか、という話になったんです。しかし、GICではJavaやPHPといったOPEN系言語を使ったウォーターフォール型の開発が主流であり、RPGを扱える人材は一人もいませんでした。そのため、ゼロから人材を育成する必要があったんです。

- 成瀬
そこで、ベル・データが提供していたRPG言語の研修プログラムに参加してもらい、基礎スキルを身につけてもらうことになりました。とはいえ、RPGを初めて学ぶ人にとっては困難も多かったのではないでしょうか。黒い画面に緑の文字という、昔ながらの形式で操作する必要があるわけですから(笑)。また『この技術が今後も本当に必要とされるのか?』『RPGを学んでも役に立つのか?』という心配もあったと思います。

web_373A9993.png- テーミャッノー
最初はとても不安でした。でも、小堀さんが先生のように丁寧に教えてくださったので、触っているうちに『これもできるかな?あれも試してみようかな?』という気持ちが段々と湧いてきて楽しくなりました。

保守業務はセオリー通りにいかない場面も。だからこそ、実務経験を通してスキルアップを

プロジェクトの初年度には、5名のミャンマー人エンジニアが参加。そのうち2名はミャンマーにいたため、研修はWeb会議ツールを利用してオンラインで実施された。また日本にいるメンバーは、実務を通じて実践的なスキルを磨いていった。

web_.373A9973png.png- 成瀬
システム保守の難しさは、自分たちが開発していないシステムで保守業務をしなければならないことです。一般的なシステム開発では、計画を立て、要件を確認し、設計を進めるという流れで業務が進みます。しかし、保守業務の場合はシステムの内部を完全に把握しているわけではないため、問題が発生した際にはまず調査から始め、その結果をもとに対応策を決める必要があります。つまり、教科書通りの対応ができないのです。

- 小堀
そのため、GICのメンバーには保守業務に入る前段階の初期分析作業から参加してもらい、環境構築のための資料を作成してもらっています。また保守業務だけではなく、そこから派生する個別の開発案件にも関わってもらうこともあります。こうした多様な経験を積みつつ、日本語能力も向上させていけば、将来的にプロジェクトリーダーやプロジェクトマネージャーとして業務のフロントに立つレベルまで到達できる可能性もあると考えています。

- テーミャッノー
私は、プレイヤーとしてまだまだ未熟なので、いろんな仕事に携わりながらスキルを身につけていければと考えています。今後については検討中 ですが、チームを牽引できる存在になることも選択肢のひとつになると思っています。

- 小西
最初のうちは現場がスムーズに回るか不安もありました。企業によっては、外国人に対して厳しいコミュニケーションを取るところもあり、そのような状況でメンバーがやる気を失うケースも少なくありません。しかし今回は、現場の方々が丁寧にサポートしてくれたおかげで、とても良い雰囲気の中で業務に取り組むことができました。

長期的に人材を採用・育成するために構築した新たなフロー

初年度の成功を礎に、2期目以降はGIC様の社内でもRPG技術者を育成していくスキームを構築している。これらの取り組みもあり、現在は20名ほどのRPG技術者がGIC様の社内に在籍。しかし、技術者の数はまだ十分ではなく、今後も採用を拡大していく予定だ。この取り組みは2~3年という短期的なものではなく、長期的な運用を計画している。

- 成瀬
これまではRPG言語に関する知識がないGIC様の若手エンジニアに向けて、RPG語の研修プログラムを行っていました。現在は、GIC様の中でRPGについて学べる機会を作っていただき、我々の研修を受ける前からRPGの知識を持つメンバーが増えていると感じています。今後は若手エンジニアの方がある程度RPG言語の知識を持った状態で、研修プログラムを開始できるようになると考えています。

- 小西
当社としてもRPG技術者の人材獲得と育成に注力しています。昨年までは自社開催のジョブフェアを通じて人材を採用していましたが、今年から自社スクール『GIC Tech Hub』でJavaやPHPのほかにRPGを学べる環境を用意しました。つまり、“入社後から育成を始める”のではなく、“入社前から育成を始めよう” という考え方にシフトしつつあるわけです。今後、即戦力となる人材を輩出できるようにしたいと考えています。      

また、入社後の育成フローも見直しました。これまではミャンマーで3年間のIT研修・IT実務・日本語研修を実施した後、GICの東京本社へ転籍させていましたが、ミャンマーの国内情勢が変化し、徴兵制を避けるために多くの若者が海外へ出る流れが加速しています。そこでより多くの技術者を育成するために日本国内にもう一つの受け皿を作る必要性を感じ、九州・宮崎に新たな拠点を設立しました。

現在は、採用後にミャンマーで1年間のIT研修・IT実務・日本語研修を実施した後、宮崎に移って引き続きIT実務と日本語研修を実施する様に変更しています。新たな育成プランを採用し、2社間独自の人材スキームを構築したweb_図表①.pngweb_図表②.png web_373A0012 (2).png- 小堀

当初はコミュニケーションの面で不安がありました。しかし、彼らは日常会話レベルであれば問題なく日本語を話すことができます。今では気軽に話しかけてもらえるようになっているので、良い関係が築けていると感じます。

- 小西
ありがとうございます。我々としても日本語研修にはかなり力を入れています。ミャンマーにいる間に日本語能力試験(JLPT)3級レベルまで向上させ、その後、宮崎に移籍してから2級レベルまで引き上げるように研修を組み立てています。       

加えて、ミャンマーの方々は仏教をベースにした価値観を持ち、家族を大切にする文化があります。これは日本人の価値観とも通じる部分が多いので、言葉の壁がなければ仕事を進めるうえでもやりやすさを感じる場面が多いのではないでしょうか。

GICとの共創で見えてきた事業構想の可能性

宮崎拠点の設立によりコストは増えた。しかし、2022年に成立した経済安全保障推進法の影響で海外インフラを利用することへの規制が強まったうえ、一部の企業では海外への業務委託を避ける動きが出てきたことで、より多くの企業と取引できるようになったという。オフショアでありながら日本国内に拠点があることが安心材料になっているそうだ。こうした状況を踏まえ、「ミャンマー・東京・宮崎の3拠点を軸にしたさらなる事業展開も見えてきている」と小西氏は話す。web_373A0043.jpg- 小西

ミャンマーの技術者は英語の読み書きもできる人が多いので、このままテクニカルスキルが上がっていけば外資系企業との連携や海外向けの事業にも展開できると考えています。また、今後はアプリケーション開発のモダナイゼーションも重要になってきます。すでにJavaを扱える技術者が多いミャンマーのエンジニアにとって、RPGの技術を身につけることは大きなチャンスなんです。

- 成瀬
GIC様のメンバーは、日本語と英語の両方を話せる方が多いため、今回のプロジェクトをきっかけに当社としても今まで意識していなかったアジア圏への展開も視野に入れられるようになってきました。すぐに展開できるかどうかは別として、そうした可能性が生まれてきたというのは我々にとって大きな変化だと思います。       

- 小堀
現在はRPGを用いたシステム保守業務を請け負っていますが、お客様のシステムはRPGだけで構成されているわけではなく、OPEN系の技術で動いている部分が混在しているのが実情です。さらに、基幹システムの周辺には、さまざまなクラウドサービスや外部システムとのインターフェースがあり、そうした部分のメンテナンスやバージョンアップのニーズも増えています。GIC様とはRPG以外の領域も含めてお客様の支援をしていきたいと考えています。

web_373A0105.jpg- 成瀬
加えて、当社お客様の中には『やりたいことがあるけれど、人員のリソースが足りない』という課題を抱えている企業も多くいらっしゃいます。そうしたご要望に応えられるようにするために、将来的には単なる保守業務にとどまらず、マネジメントや企画・構想の段階から関わるような新しい仕組みを、GIC様と共に少しずつバージョンアップしていければと考えています。

- 小堀
“RPGを理解でき、なおかつJavaやPHPも扱えている、そしてさらに英語も話せる”そんなエンジニアがもっと増えていけば、IBM i を取り巻く環境はガラッと変わりますよね。理想とする未来の実現に向けて、これからも優秀な人材を育て続けたいと考えています。

30年後もIBM i の運用を支え続ける体制を構築するために

IBM i を使い続ける企業にとって、RPG技術者の不足に起因した将来的な運用への不安は避けて通れない課題だ。しかし、今回の取り組みのようにIBM i の継続利用を支援する体制が整うことで、課題を解決する選択肢は確実に増えていく。それは結果として、ベル・データがグループのパーパスとして掲げている『技術探険と共創で、社会に安心を届ける』の実現にも通じる。
web_373A9944.png- 成瀬

IBM i は、24時間365日安定稼働し、セキュリティレベルが非常に高い堅牢なシステムです。最大の強みは、30年以上前に開発されたにもかかわらず、何も変更せずに動き続けていること。しかも、一般的なプラットフォームと異なり、頻繁なバージョンアップも不要です。この継続性と安定性こそが、IBM i が長年多くの企業に採用され続けている理由だと考えています。

-小西
IBM i は30年以上安定稼働するほどの耐久性を持ち、『壊れないのが逆に怖い』と言われるほどですからね。(笑)

- 小堀
にもかかわらず、技術革新が進む中でIBM i から別のシステムへの移行を検討する企業が増えています。多くの企業がIBM i からOPEN系言語のシステムへ移行するケースが見られますが、私たちはこの流れを変えたいと考えています。IBM i の安定性を活かしながら、OPEN系言語と組み合わせて活用することで、新たな可能性を生み出せるはずです。このアプローチが実現すれば、IBM i の価値をさらに高め、より多くの企業が長くシステムを使い続けられるようになります。
web_373A9961.jpg- 小西

実際、私たちのもとにも『システムをOPEN系言語に移行したい』『リプレイスしたい』という相談が寄せられます。しかし、そもそも移行やリプレイスが本当に必要なのかという視点がとても重要だと考えています。 IBM i を理解している技術者が社内にいないと『よくわからないから移行しよう』といった判断になりがちですが、実際にはIBM i の堅牢性を活かしながら部分的なWeb化を行うことで、全体を作り替えずに低コストで課題を解決できるケースもあります。そのような最適解を私たちは提案していきたいんですよね。

- テーミャッノー
これまで私たちは主にシステムのOPEN系言語を学んできましたが、ベル・データに入社して初めてIBM i のRPG言語に触れ、その可能性を理解する機会を得ることができました。実際に、IBM i でもOPEN系と同様に多くのことが実現可能であることを実感し、大変驚きました。 今後は、RPGとOPEN系スキルを組み合わせながら、IBM i ユーザーの課題やニーズに幅広く対応できる存在を目指し、引き続き努力していきたと思っています。   

- 成瀬
ミャンマーの若手エンジニアの育成が進めば、IBM i の保守・開発に携わる技術者が増えるので、そういった課題もなくなるかもしれません。だからこそ、私たちはこれからもGIC様と連携して10年、20年、さらには30年後もIBM i の運用を支え続ける体制を整えていきます。IBM i の継続利用に悩まれている企業様は、ぜひ私たちにご相談いただけると幸いです。

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GIC様とベル・データによる共創は、単なるオフショア開発や保守要員の確保を超えて、RPGの次世代技術者を育成し、IBM i の将来を支える大きなスキームへと成長している。 IBM i の要員不足に悩む企業に対し、“痒い所に手が届く”サービスを継続的に提供する下地はでき上がった。両社による共創価値は、市場に対してさらなるインパクトを発揮していくだろう。

小西 剛 様


グローバル・イノベーション・コンサルティング株式会社
取締役副社長

テーミャッノールイン 様

グローバル・イノベーション・コンサルティング株式会社
ITソリューション事業部
クライアント エグゼクティブ

成瀬 正樹

ベル・データ株式会社
執行役員
アプリケーションビジネス本部 本部長

小堀 一弘

ベル・データ株式会社
アプリケーションビジネス本部 アプリケーションSI統括部
アプリケーション推進部 東日本アプリサポート推進課 課長

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